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健康コラム
専門医が語る病気の知識
PPI 抵抗性胃食道逆流症 (Proton Pump Inhibitor-Resistant GERD)

定義

 胃食道逆流症(Gastroesophageal Reflux Disease: GERD)の初期治療の第一選択はプロトンポンプ阻害剤(PPI)です。PPIは、胃壁細胞膜上のプロトンポンプ(胃酸を分泌する物質)に結合し、そのプロトンポンプを働かせる酵素の作用を妨げて、強力に胃酸分泌を抑制する薬剤です。標準量のPPIを8週間内服しても、食道粘膜のただれと胃食道逆流が原因と考えられる症状(胸やけ、つかえ感、呑酸、胸痛、など)のいずれかもしくは両者が十分に改善しないものを、PPI抵抗性胃食道逆流症(proton pump inhibitor-resistant GERD)と言います。GERDには食道粘膜のただれを有する逆流性食道炎(reflux esophagitis)とただれを認めず逆流症状のみがある非びらん性胃食道逆流症(non-erosive reflux disease:NERD)(健康コラム【びらん性 GERDと非びらん性GERD】をご覧下さい。Click)が存在することから、PPI抵抗性胃食道逆流症はPPI抵抗性逆流性食道炎(proton pump inhibitor-resistant reflux esophagitis)とPPI抵抗性NERD(proton pump inhibitor-resistant NERD)に分類されます。

原因

 PPI 抵抗性GERDの原因としては、不十分な胃酸分泌抑制(PPIを使用しているが十分な酸抑制が得られていない)、食道知覚過敏健康コラム【食道知覚過敏】をご覧下さい。Click)による酸以外の液体(十二指腸液:胆汁酸、膵液)や空気の逆流による症状、好酸球性食道炎(食物アレルギ-により食道粘膜が慢性的に炎症を起こす病気、健康コラム【好酸球食道炎】をご覧下さい。Click)、食道運動障害、機能性胸やけ(胸やけを起こす原因不明の病気)、心理的要因が指摘されています(Gut 58; 295-309:2009)。

検査

 PPI投与により症状が改善しない時には、食道インピーダンス・pHモニタリング(胃酸以外の液体や空気の逆流を捉え、胃酸の逆流の程度を評価)検査や食道内圧検査(食道の運動機能を評価)を行い、原因を精査します。

治療

 PPIの種類・投与法(食前投与に)の変更、PPI 倍量・分割投与を行います。また、消化管運動機能改善薬漢方薬就寝前のH2受容体拮抗剤(胃の壁細胞にあるヒスタミンH2受容体を遮断することによって胃酸分泌を抑制する薬剤。健康コラム【夜間酸分泌回帰】をご覧下さい。Click)の追加投与を行うこともあります。ところで、カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(Potassium-Competitive Acid Blocker:P-CAB)という新しい薬剤が2015年より使用できるようになりました。これはプロトンポンプが酸を分泌する時に取り込むカリウムイオンに働きかけて、カリウムイオンとプロトンポンプを阻害する薬剤です。PPIよりも速やかで長く強力な酸抑制効果を有し、食事の影響を受けないのが特徴です。このP-CAB投与により、PPI 抵抗性胃食道逆流症の治療でより高い症状改善効果が期待されます。その他に精神科的アプローチ外科的な対応が必要になることもあります。