近年、胃粘膜に感染するヘリコバクター・ピロリ菌(以下ピロリ菌)という細菌が胃炎や胃・十二指腸潰瘍の原因の一つであることが判明しました。この菌を持っている人がすべて胃・十二指腸潰瘍になるとは限りませんが、再発性の胃・十二指腸潰瘍のほとんどにピロリ菌が関係していることがわかっています。このピロリ菌はアンモニア、タンパク分解酵素、細胞毒素、活性酸素などの有害物質を産生し、粘膜防御機構(胃・十二指腸粘膜が胃酸や消化酵素などの内的刺激や食物、薬物などの外的刺激から自分を守ろうとする働き)を破綻させ、胃・十二指腸粘膜を傷害するといわれています。したがって、ピロリ菌を退治(除菌)すれば胃・十二指腸潰瘍の再発の防止に役立つとされています。除菌(2000年11月より保険適応)には胃酸を抑える潰瘍治療薬と抗生物質を服用します。当院でピロリ菌の検査及び除菌療法を行っておりますので、胃・十二指腸潰瘍でお悩みの方は是非ご相談ください。
(院長は3000例以上の除菌の経験があります)
最近、ピロリ菌と胃ガンとの関連が話題になっています。「ガン」は日本人の病気 による死因の第1位ですが、その中でも肺ガン、大腸ガンに次いで第3位を占めているのが胃ガンで、毎年約5万人の人が亡くなっています。古くは、1994年6月に世界保健機関(WHO)の下部組織である国際癌研究機関(The International Agency for Research on Cancer: IARC)がピロリ菌を「確実な発ガン因子」[Infection with Helicobacter pylori is carcinogenic to humans (Group 1)]と認定しました(IARC Monographs on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans Volume 61)。これは、疫学調査でピロリ菌を持っている人はそれを持っていない人より胃ガンの発生率が3~6倍高いということによるものでした。もちろん、感染者のすべてが胃ガンになるわけではありません。多くの感染者は、無症状のまま慢性胃炎の状態でとどまります。さらに、ピロリ菌が胃ガンの原因になるとする最新の研究成果が、呉共済病院の研究チー ムにより2001年9月に米国の医学雑誌(N Engl J Med 2001;345:784-789)に発表されました。ピロリ菌に感染している人と感染がない人を、7~8年間にわたり内視鏡検査で追跡した結果、「ピロリ菌感染者1246人中36人(2.9%)に胃ガンが発生し、感染していない280人には胃ガンの発生がまったくみられなかった」という報告です。胃ガンは、幼少期にピロリ菌に感染し、その後の食生活などを通し て、発ガン物質を長期にわたって摂取することで発生すると推定されます。
ヘリコバクター・ピロリ除菌療法の保険適用上の対象疾患は、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病、早期胃癌に対する内視鏡的治療後胃に限られていました。このたび胃ガン予防の目的で (Lancet 2008;372:392-397, Helicobacter 2010;15:486-490)、 2013年2月21日より「ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎」に対しピロリ菌の除菌療法が保険適用となりました。除菌治療にはヘリコバクター・ピロリ感染の確認と上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)で慢性胃炎の所見があることを確認する必要があります。
また2014年にWHOのIARCの作業部会は、胃がん予防戦略としてのピロリ菌除菌に関する報告書(Helicobacter pylori eradication as a strategy for preventing gastric cancer)を発表しました。
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