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健康コラム
専門医が語る病気の知識
過敏性腸症候群 (Irritable Bowel Syndrome: IBS)

 腸に腫瘍、潰瘍、炎症のような病変がないのに、腹痛や腹部の不快感を伴う便通異常(便秘や下痢)が続く病気で、ストレスによって症状がでたり、増強したりします。死に至る病ではありませんが、不登校や欠勤、遅刻などの誘因になり、生活の質(QOL)を下げています。全人口の10~20%がかかっているといわれ、ストレス社会の到来により増加の一途を辿っています。この病気の原因は不明ですが、腸の運動異常によるものと考えれています。すなわち、腸と脳は自律神経によりつながっていて、脳がストレスを受けると自律神経を介してストレスが腸に伝わり腸の運動異常を引き起こして、腹痛や便通異常が発生するのです。

 小腸で栄養分が吸収されて残った食物のカスは、液体の状態で盲腸に入って来ます。大腸はそのカスから、水分を吸収して固形便をつくります。ストレス等で自律神経失調状態になると、腸の運動が速くなったり、遅くなったり、腸の一部がけいれんを起こしたりします。腸が速く動くと、大腸内で食物のカスから水分を吸収する時間が少なくなり、下痢になります。逆に腸の動きが遅くなると、水分の吸収する時間が長すぎて、硬い便になり、便秘の状態になります。また、腸の一部がけいれんを起こすと、その部分の通りが悪くなり、腹痛が起こってきます。

過敏性腸症候群には次の3つのタイプがあります。

下痢型 休日でリラックスしていればいいが、朝の通学、通勤時に、おなかの調子が悪くなり、トイレに駆け込んで下痢をするタイプです。胃に食物が入ると大腸が動きやすくなって食事毎に下痢をすることが多いです。
便秘型 腹痛があり、便意があっても便が出にくく、ウサギの糞のようなコロコロとした便が出るタイプです。
交替型
(交代型)
便秘と下痢を繰り返す型です。

 過敏性大腸症候群の診断は自覚症状からします。2016年のローマ診断基準IVが近年世界的に認められています【症状は6ヶ月以上前からある。週に1回以上の腹痛が3ヶ月以上続いており、次の3つの項目のうち2つ以上を満たす。(1) 腹痛は排便と関係している、(2) 排便回数が以前と変わる、(3) 便の外観が変化する】。

 薬物療法は自覚症状を和らげるために行われます。下痢型には,止痢剤、整腸剤、抗コリン薬などが用いられ,便秘型には下剤 、消化管運動調整剤などが用いられます。抗不安剤や抗うつ剤を併用する場合もあります。ポリカルボフィルカルシウムという新しい薬は胃でカルシウムを放し、小腸、大腸で水分を吸って膨らみ、便の性状と大腸の働きを改善し、下痢型、便秘型いずれにも効果があるとされています。生活面では,適度な運動やレクリエーションで緊張をほぐし,休養や睡眠も十分にとり,精神的にも肉体的にもストレスためないことが大切です。食事は1日3回規則正しくとることが基本で、暴飲暴食はやめましょう。 下痢型の人は腸管に刺激のあるカレー,唐辛子,ガーリック、ワサビなどの香辛料,乳製品、冷たい飲物,タバコ,アルコールなどを避けてください。便秘型では食物繊維を多くとるように心掛けます。特に海藻類と煮た野菜などが効果的です。