日本人の胃食道逆流症罹患率は1990年後半より増加しており、現在10~20%の方がこの疾患に悩んでいいます。では何故胃食道逆流症の方が増加しているのでしょうか?以下にその要因を解説しましょう。
ピロリ菌感染率の低下
胃粘膜に感染するヘリコバクター・ピロリ菌(以下ピロリ菌)という細菌が胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胃癌の原因の一つであることがわかってきました。日本では戦後の衛生状況の改善によりピロリ菌の感染率が減ってきています。ピロリ菌の感染により胃炎が発生すると、胃の酸分泌機能は低下します。近年ではピロリ菌がいない元気な胃の方が増えてきました。健康な胃は沢山の胃酸を作ります。それにより食道に逆流する胃酸の量が増加します。
食生活の欧米化
戦後の高度経済成長により日本が豊かになり、肉類を中心とする高脂肪食の摂取が増加しています(脂肪分は戦前の3−4倍に増加)。高脂肪食は消化に時間がかかるため、胃酸も長い時間分泌されます。実際1970年代から1990年代までの日本人の胃酸分泌が増加したことが報告されています(Gut 41; 452-458:1997)。脂肪分の多い食事をとると、小腸上部からコレシストキニン(CCK)というホルモンが分泌され下部食道括約筋が一時的に緩みます。これにより胃酸が食道内に流入し易くなります。また肥満の方は腹圧が上昇し、逆流が増えます。
人口の高齢化
食道粘膜は自体の防御機能として食道粘膜抵抗を有しております。また唾液腺から分泌される唾液は1日1.0~1.5Lにも及び、食道内をきれいに保つ働き(食道クリアランス)に寄与しています。それには食道の蠕動性の収縮運動により食道内の逆流した胃液を胃内に押し戻す働き(volume clearance)と唾液による胃液の洗浄と唾液中の重炭酸による中和(chemical clearance)があります。また下部食道括約筋(LES)と横隔膜による逆流防止機構があり、これらを総称して食道粘膜防御機構といいます。近年の高齢者が増加しており、加齢による食道運動の低下と唾液分泌の減少により食道クリアランス機能が破綻し、食道内に逆流した胃酸を除去できににくくなっている方が増えています。更に骨粗鬆症(椎体骨折)に伴う姿勢変化により腰が曲がってきますと、食道裂口ヘルニア[横隔膜を食道が貫いている部分(食道裂孔)を通して胃の上部が、横隔膜より上方へ脱出した状態を指します]が増加し、胃から食道内に胃酸の逆流が増加します。
食道知覚過敏
食道粘膜が酸を特に感じやすくなっている、いわゆる知覚過敏によって症状を訴える方がいます。食道にびらんや潰瘍がないのに胸やけを訴えるのは、少量の胃酸に対して食道が敏感になっているためと考えられます。食道知覚過敏の方は酸分泌抑制薬による治療に抵抗性を示すことが多いです。例えば、プロトンポンプ阻害剤のような強力な制酸剤で胃酸分泌が90%以上抑えているのにも関わらず、残りの10%未満の弱酸に食道が過敏に反応してしまい、胸焼け等の症状が出現することが起こりうる訳です。
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